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さしもしらじな

おめでとうございます!
今年もべびプリです。正月っぽい観月SSです。
今年はこの調子で色々頑張っていきたいなと思っています。
楽しんで頂ければ幸いです。


 (始)

 一月一日、元旦。
 今日は家のいたるところで「あけましておめでとうございます」の声が聞こえてくる。
 住み慣れたはずのわが家も、鏡餅、角松、しめ飾り、掛け軸、神棚飾り等の正月向けの飾りに包まれ、
 どことなくおごそかな雰囲気に満たされている。そんな中であわただしく初詣を終えたうちの家族といえば、
 おせち料理を食べるもの、お年玉の使い道を考えるもの、外に遊びに行くもの、普段と同じ生活を送るもの、
 と思い思いの時を過ごしてるようだった。

 嵐のような正月のあいさつと家族の相手を終えて、
 今の自分はこうしてコタツでミカンを食べている……早い話が疲れて一休みである。
 コタツの向かい側にいる霙姉さんはおせちの栗きんとんを口に運んでいる。
 和服のままで帯の締め付けがあるだろうに良く入るなあ、と考えていると
「欲しいのか?やらんぞ」といつもの調子で返してくるので、
 霙姉さんの大人びた和服姿に内心少しだけドキリとしていた自分が馬鹿みたいだ。
 その向こうのソファーでは帰ってすぐ着替えたらしく、洋服の吹雪が本を一人で読んでいた。
 きっと吹雪なら「洋服の方が機能性が高い」と言うのだろう。

 正月の喧騒もひと段落した静かな昼下がりの居間で
 マイペースな家族達とこうしてのんびりしていよう。
 そんなことを考えていると不意に袖を引かれる感覚があった。
「兄じゃ、わらわと遊んでたもれ?」
 華やかな赤い着物がまぶしい。我が家の十五女、観月である。
 普段と同じ赤であることが巫女服の素朴な赤と和服の見せる赤の差異を際立たせ、今の観月をいっそうあでやかに見せている。さらに着物の光沢が普段見慣れているはずの黒髪の色合いをより深く引き立て、観月の存在をより強く印象付けている。四歳とは思えない着物の着こなしを見せる観月の手には小さな箱が握られていた。
「いいよ。何して遊ぶ?」
 観月は笑顔で答えた。
「百人一首じゃ♪」

 百人一首とは鎌倉時代に歌人の藤原定家が当時の有名な和歌を百人から一首ずつ選んだものである。
 現代においては上の句を読み下の句を取るかるた遊び、一対一の競技かるたの場合は各自25枚、合計50枚の下の句の札を場に並べ取り合うゲームである。ちなみに残りの50首は読まれるが当然下の句が無い空札なので手を出すとおてつきになる。

 ――と、いうのがざっと思い出した百人一首のルールである。
 相手の観月は邪魔になる和服の袖をたすきがけに準備の最中。
 きゅっと紐を結ぶ仕草が戦支度をする武家の娘のようで、つられてこちらの顔も引き締まってしまう。
「待たせたの。じゃが手加減はせんぞ。兄じゃ」
「こっちも負けないよ、観月」
「札は私が読み上げます」
 上の句を読み上げる読み手は吹雪が務めてくれるようだ。
 霙姉さんは栗きんとんを食べたまま、だが興味はあるようで時折こちらに視線を向ける。
「それでは始めます」
 こうして俺と観月のかるた勝負は始まったのである。

 かるたとは結局のところ、すべての札と配置を記憶して読み上げから瞬時に判断し札を取ることに尽きる。
 観月は日記に和歌を詠んだことがあるが百人一首の全てを記憶しているとは限らない。
 ばあちゃんと百人一首の経験があり、一通りの歌を覚えて重要な一字決まりの札(読みあげた一文字目で下の句がわかる札)二字決まり札(二文字目で下の句がわかる札)を把握して取りやすい位置に並べている自分の方が有利である。これで幼稚園生と高校生のリーチの差があれば勝てないはずがない。

 普段は大人びた観月の姿に気圧されみっともない姿を見せることも多いのだが、
 今回は観月に強さを見せ、最後は兄らしく少しだけ手加減してあげる。立派な兄の姿の見せどころだ。
 その時はそんな大人気ないことを考えていたのである。

 吹雪が口を開く。その小さな唇から言葉がこぼれだした。

「む――」

 一字決まり札、自分の右ひざ前、そう考えた瞬間、
 閃光が走った。

 突如前方からこぼれ出た赤と白の光芒は、こちらが札の位置を思い出すより早く、
 定められたところから定められたところに流れる舞のような美しさを持ってきらめいて、
 狙いの札を俺の目の前から奪い去っていた。

「はい!」

 赤と白の光が観月の赤い袖と白い手だと気付けたのは、
 止まった時間が動き出したかのように観月の声が遅れて聞こえてきたからである。
 札を拾う観月の手を呆然と眺める中、吹雪が下の句を読みあげた。

「きりたちのぼる あきのゆうぐれ。観月、正解です。それでは次は――」

 それからの勝負は散々な有様だった。
 観月の素早さは目を見張るもので、こちらが札の場所を思い出すコンマ何秒の間に観月の手は伸びている。
 歌を思い出して札を選ぶまでの初動がケタ違いに早いのだ。かるた選手並みの判断速度である。
 これでは年齢差も意味を為さない。フライングで手を動かしプレッシャーをかけても観月は動じない。
 50枚の空札にも惑わず的確に正しい札だけを取っていく。

 そして何より、自分は観月の姿に心奪われてしまったのかもしれない。
 目の前から札を取られても悔しいと思わない、むしろその動きの綺麗さに見入ってしまう。
 遠くにある札を観月が小さな体を投げ出し取る姿を見ると良くやったと抱きしめたくなるほどである。
 こんな状態では勝てるはずもない。兄の権威は地に落ちた。霙姉さんが愉快そうに眺めているのがわかる。
 それでも心の中に残る最後のプライドが「一枚も札を取れずに負けるのは絶対に嫌だ」と叫び、
 見苦しくも観月の隙を待ち続けているのが現状である。

 こうして観月の手が札を取り去るのを見続けて何回目だろうか。
 それは唐突に訪れた。

「なげてとて つきやはものを――」

 吹雪の声が七文字以上の言葉を告げるのは
 このかるたで初めてのことではないだろうか。
 観月の「はい」という声はまだ聞こえてこない。

 戸惑いながら観月の方を見ようとする視線の途中、
『かこちがおなる わがなみだかな』
 自然と手を伸ばしていた。

「はい」

 その動作を終えるまで観月の声が聞こえることはなかった。
 手の中に収まった札はとても軽くて夢を見ているような気がしてくる。

 周囲も同じ気持ちのようだった。
 驚いたような霙姉さんの視線。一拍遅れて吹雪の声。

「かこちがおなる わがなみだかな……兄さん、正解です」
「やったの兄じゃ!今度は負けんからの」
「あ、あぁ……うん。ここから挽回する!」


 と意気込んだのだが……もちろん、挽回なんてできるはずもない。
「観月47枚、兄さん3枚。この勝負、観月の勝ちです」
「やったのじゃ!やったのじゃ!」
 吹雪の冷静な声が勝利者を告げる中、観月は嬉しそうに居間を飛び回っている。
 途中から負けるのは覚悟の上だったが、いざ決定すると悔しいものがある。
「楽しかったの、兄じゃ!今度は他の姉じゃと遊んでくるのじゃ!」
 まだ興奮さめやらぬ様子の観月は笑顔のまま居間から駆け出す。

 その時、観月と目があった。
 笑顔の中にあっても一際目を引く大きく澄んだ瞳。
 黒曜石のようにこちらの姿を映し出し何かを問いかけているように見えた。
 だが目があったのは一瞬で観月は微笑むと居間からすぐに出て行ってしまった。

「情けなさすぎて、見限られたのかな……」
「まったくだ。ボロ負けにも程がある」

 みっともなく負けたこの長男をからかうつもりか、霙姉さんがこたつから這い出してくる。

「姉ならもっと弟を慰めるとかあるでしょ、もっとさ」
「そんなことより不思議だと思わないか――なぜお前が三枚も取れたか」

 霙姉さんに話をそらされたような気もするが、そうなのだ。
 観月の電光石火の動きを見る限り、自分が相手なら全ての札を取れるレベルだ。
 だが今自分の手には数枚の札が残されている。普通ならありえない状況と言える。
 これについては兄のプライドがズタズタになるのであまり考えたくないのだが、

「……観月がかわいそうに思って手を抜いてくれたとか?」
「それも考えられるが、それならあんなあからさまにする必要はない。満遍なく手を抜けばいいだろう」

 霙姉さんは首を振った。
 確かにそうだ。
 あの一枚目の札が取れた時、疲れた観月の反応が遅れたのであれば逆転の目もあっただろう。
 だが実際はあの後も観月の光のような動きは変わらぬまま。結果は47対3のワンサイドゲーム。
 手を抜いたのならもう少し勝負になる速度に落とすはずである。一方的な勝負であったにも関わらず、
 何故か時折動きが止まり数枚の札を取ることができたというのはどうにも解せない話である。

「それならば別の意味があると考えるのが道理だ――さて」

 霙姉さんはこちらの手にある三枚の札を奪い、
 居間のカーペットの上に並べてしばし眺める。
 そして唐突に笑い始めた。

「はははははは!これは!これは!怖いな、我が妹ながら恐ろしい!」
「え、え、どうしたの、何か分かったの霙姉さん!」
「いつまでも持っていてほしいのか、奪ってほしいのか、真相は直接聞くしかないが
 本当に末恐ろしい妹だな……まったく」 
「どういうこと?俺はわからないのに。教えてよ、霙姉さん」
「フフフ……これはお前が考えてやる問題だ。自分で考えるんだな」

 何やら一人合点がいった様子でコタツに戻ってしまう。
 こっちは何もわかっていないのに……
 ぼやきを聞き取ったかのように霙姉さんは一言。

「どうしてもというなら――吹雪にヒントをもらうといい。
 まあ気づいてやるのも男の仕事だからな」

 その言葉に吹雪はどことなく不機嫌そうにこちらを見た。
 そして平坦な口調で問いかける。

「本当にわかりませんか?」
「うん。できれば……お願い」

 仕方ありませんねと言いながら吹雪は側に座ると、
 残った札を一枚一枚読み上げ始める。

『なげけとて 月やは物を 思はする かこち顔なる わが涙かな』
『天の原 ふりさけ見れば 春日なる 三笠の山に 出でし月かも』
『秋風に たなびく雲の たえ間より もれいづる月の 影のさやけさ』

「これらの歌に共通する単語は――『月』です――」

 それだけ言い残すと吹雪は札を片づけ始めた。
 札を混ぜて一つの束にするとカーペットの床に置く。
 置いた時のトンと響く音が吹雪の鈍感と言う声のように聞こえた。
 歌を詠むように恋をして恋をするように歌を詠む平安時代の歌人ならこんな問題にもすぐ気づけたのだろうか。
 一番上の札をなんとなく読みあげてみる。絵札の貴族もこちらを笑っているような気がした――

『かくとだに えやはいぶきの さしも草 さしもしらじな もゆる思ひを』
(あなたを好きだと言うことさえ言うことができないのだから、ましてや伊吹山のさしも草が燃えるように
 私の思いの火がこんなにも激しく燃えているとは、あなたは知らないだろう)

 (終)



今年もよろしくお願いします!
実際は月の札はもっとあるのですがあまり歌ばかり並ぶとテンポ悪いので、
取り札50枚には入ってなかった設定で、観月は札取ってる途中に不意に思いついた感じです。
年末から今年にかけてべびプリの激動の年、涙がとまらないほど感動させられながらも
家族はずっとずっと続いていくのです!これからもよろしくお願いします!

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プロフィール

Author:akio(あきお)
とってもゆるい人間が気まぐれに記事を書いたり、書かなかったりします。見てくれる方はあまりいないでしょうが、見て頂けるのでしたらありがたい限りです。
小説っぽいものを出したり、出さなかったりするサークル「妄想ワンコインスタンド」のほったて窓口。メールは aki44013あっとまーくgmail.com まで。twitterはdm_akioまで

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