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Happy "Re" BirthDay

遅れすぎて腹切りものの綿雪お誕生日SS
ちょっと愛情が入りすぎてキモいかもしれません。
長男視点行動少なめ、その代わり思考大目。
ご注意下さい。

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10月2日、リビング

「いーち、にー、さーん、しー、ごー、きゃっ」
「大丈夫、ユキ?」

 倒れ掛かる綿雪の背中をそっと支える。
 綿雪の体を跳ね飛ばそうとしたのは瑞々しく健康的な脚、
 その主、我が家の四女ヒカルが顔を上げた。

「やっぱり綿雪は軽いな。重いオマエの方が良いんじゃないのか?」
「だーめ。お手伝いをするのはユキ。俺はただのサポート、だよね。ユキ?」
「はい! ヒカルお姉ちゃん、ユキ、もっとがんばります!」

 綿雪の言葉にヒカルは苦笑いしながら横になった。
 ヒカルのひざをユキが全身を使って押さえるとヒカルは再び腹筋を始める。
 体の弱い綿雪がヒカルのトレーニングを手伝おうとするのには理由がある。

 
 それは昨日10月1日の夕方、
 控えめなノックの音が部屋に響いた。
 扉を開いた先には、
 モヘアのように柔らかく艶やかな髪、名前に違わず雪のように白い肌、
 我が家の十三女、綿雪が立っていた。

 一瞬、目を奪われた。
 綿雪の瞳に秘められた決意の色に、
 その静かな輝きは目の前の少女を遥か年上に見せる時がある。
 この小さな体に今まで、どれだけの想いを抱えてきたのだろうか――

「ユキ、お兄ちゃんにお願いがあります」
「なんだい、ユキ?」
「ユキは、家族のみんなにプレゼントをあげたいです」
「え、普通は逆だよね。もしかして」
 
 明日10/2は綿雪の誕生日、目の前の少女がこの世に生を受けた日。
 だが病気がちな綿雪は、クリスマスに家族と一緒にいられるだけで幸せだと、
 もうプレゼントなんていらないと言ったことがある。今回もまさか?
 こちらの表情から考えを読み取ったのか、綿雪が首を小さく横に振る。

「ユキはお誕生日を今まで頑張ってきた人がその分を祝ってもらう日だと思ってます。
 そんな日にユキはみんなから色々なものをもらってばかり、でもユキはみんなの気持ちが嬉しいから、
 みんなの気持ちを大切にしたいから、プレゼントをいらないなんて思いません」
「ユキ……」
「だからユキは、お返しをしたいと思います。
 この一年、ユキのことを支えてくれてくれた大切な家族に、
 小さくてもお返しをしたいです。そんな風にして、
 次のお誕生日には返せるものを少しずつ増やしていきたい。
 そして次の一年後にはもっと強く生まれ変わりたい。
 それが――ユキのおたんじょうび、です――」

 綿雪はそっと微笑んだ。

「笑わないでくださいね、お兄ちゃん。
 ユキは、少しだけ怖いです。最近は元気になってきましたけど、
 無理をして調子が悪くなったら家族のみんなに心配をかけちゃいます。
 でもお兄ちゃんが側にいてくれたらきっと――
 お願いします、お兄ちゃん。明日のユキに元気をください――
 ユキに――そんなお誕生日プレゼントをください――」


「じゅう、じゅういち、じゅうに……」
 こんなお願いを断れる人間がいるのだろうか?
 再び転びそうになる綿雪の体に手を添えた。
 小さな肩の感触、つぶさないようにそっと支えた。
 体を持ち上げるヒカルと目が合ったので小さくウインク。
 するとヒカルはしょうがないなという顔をした。
「じゅうーさん……、じゅーうーしー……」
 ヒカルの腹筋の速度が落ちる。
 ゆれが少なくなり足を押さえる綿雪も楽なはず。
 後で「ゆっくり腹筋する方が疲れるんだぞ」と怒られるだろうけど、
 綿雪のお誕生日のお願いに比べたら安いもの。

 そうして綿雪と一緒に家族のお手伝いをして回った。

「えっと、この生地をこねるのは……」
「俺がやるよ」
「お兄ちゃん、お願いします。ユキちゃんはお皿の用意をお願い」
「はい、ユキがんばります」
「あぁ王子様と綿雪ちゃんと一緒にお料理なんて素敵です、きゅん♥」

 誕生日パーティ仕度のお手伝いは
 春風さんと蛍も心得たものですぐに終わった。
 
「ん、ならちょっと茶菓子が切れてるんだ。ドラ焼きを買ってきてくれ」
「そんなことでいいの?」
「大いなる終末の前に行為の大小はさしたる意味を持たん。そういうことだ」
「一緒にお買い物ですね。お兄ちゃん」
「あと立夏や星花達のお菓子も切れているようだぞ。
 何か買って行ったら喜ぶんじゃないのか?」 
 
 珍しいことに霙姉さんが手にしているのは和菓子でなくポテトチップ。
 横に並べたポップな洋菓子の山をすばやく平らげながら不敵に笑う。
 お菓子の出所を考えないようにしながら、この姉はどこまで知っているのか怖くなる。
 綿雪の発案で帰りがけに図書館から吹雪の読みたがっていた本を借りてくるので、  
 何はともあれ、立夏から吹雪まで一緒にお返しをすることができた。
 
『そこまでだ、美しき乙女に脅迫観念を与え無理なダイエットに強いるなど、
 空に数多輝く綺羅星を地に叩きつけるに等しき行為、この私が断じて許さん!』
(ってユキ……こいつの台詞恥ずかしすぎるんだけど……)
(ダメですよ。お兄ちゃん、みんな楽しみに見てるんですから)
『あぁ、オニーチャン仮面様ぁ』
(わかった。一度決めたことは最後までやるよ)
『止めをさすんだ、セーラーチャオ!』

 綿雪の自作紙芝居はかなり恥ずかしい内容だったけど、
 真璃以降の妹には大好評で、なぜかあさひも大喜び。
 まとめてお返しを済ませることができた。
 でも、もう二度とやりたくない。

「あー……そこそこ、背中気持ちいいわー。ユキちゃんの体重が丁度良くて、
 弟クンはもう少し強く足の裏を踏んでね」
「はいはいー」
   
 海晴姉さんもスムーズに終了。
 そして残されたのは最後の難関。

「お兄ちゃん見ていて下さいね。ユキは一人で頑張りますから」

 氷柱の部屋。
 隙間からは部屋の明かりがもれる。
 その扉を綿雪はゆっくりノックする。
「はーい誰?」
「氷柱お姉ちゃん。ユキです」
「ユ、ユキ!?今開けるわ」
 慌しく扉が開かれ、直後氷柱がこちらを睨む。
「……なに、あなたも一緒?」

 招き入れられた氷柱の部屋は女の子らしくも知的な雰囲気。
 机の上には問題集とノートが開かれたまま置かれている。

「ユキ、会いにきてくれたの?嬉しいわ。どんなご用事?」
「あの、氷柱お姉ちゃん」
「別に何の用事もなくてもいいのよ。
 お話に来てくれただけでお姉ちゃんは嬉しいから何でも言って頂戴?」

 こちらのことを無視して氷柱は綿雪に語りかける。
 綿雪は戸惑いながらも、その言葉を口にした。

「ユキに――氷柱お姉ちゃんのお手伝いをさせてください」

 氷柱はきょとんと綿雪を見た。
 まるで何を言っているのかわからないという顔で。
 遅れて数秒後、やっと言葉が届いたかのように顔を強張らせる。
 氷柱の中で今までせき止められていた言葉が爆発した。

「ユキ、何を言っているの?ユキは体が弱いんだからそんなこと必要ないのよ?」
「お姉ちゃんユキの話を」
「……ははん。わかったわ。下僕の差し金ね!ユキにこんなことさせて!何考えてるの!
 やっぱり最低な男。最近少しはまともだと思った私がバカみたい!」
「お兄ちゃんは関係ないの、聞いて氷柱お姉ちゃん」
「いいのよ。わかってるわ。あんなバカな男からお姉ちゃんが守ってあげる!
 ユキはそんなことしなくていいのよ。ユキは元気でいてくれるだけでいいの。
 ユキのその気持ちだけで私は幸せなんだから」
「氷柱お姉ちゃん……」
「いらっしゃい、ユキ」

 氷柱はこちらに向けて文句を繰り返していたが、
 最後には笑顔で、綿雪へ手を差し出す。
 
「お姉ちゃん……ユキは……」

 綿雪の指が力無くさまよい氷柱の手の平に近づく、
 震える指先は姉の笑顔を壊したくないと言っているように思えた。
 それが綿雪の選択なら止めることはできないのに、
 思わず名前を呼びそうになって――

 その時、綿雪がこちらを見た。眼の端を潤ませ、それでも――
 決意を秘めたあの瞳で、口の端を持ち上げて笑って見せた。

 伸ばしかけた手を胸元でぎゅっと握り、綿雪は正面から氷柱を見つめる。

「お願いします氷柱お姉ちゃん。ユキの話を聞いて下さい」
「ユキ……?」
「ユキは氷柱お姉ちゃんに今までたくさんのものをもらいました。
 だからユキは氷柱お姉ちゃんにもらったものを少しずつ返していきたい」
「そんな悲しいことを言わないでユキ。
 お姉ちゃんが可愛い妹のことを大切にするのは当たり前じゃない。
 それをユキが気にする必要はないわ」
「それでもいいとユキは思ってました。今までは」
「なら、どうしてそのままじゃいけないの?」
「今までずっとユキの手を引いてくれたのが氷柱お姉ちゃんです。
 ユキの本当に大好きな氷柱お姉ちゃん。だからユキは氷柱お姉ちゃんみたいになりたい。
 氷柱お姉ちゃんみたいに強くなりたい。家族にいっぱいのおくりものをしたい。
 そして、いつか――手を引かれるだけじゃなくて――」

 涙をぬぐった綿雪は優しい笑顔で、

「ユキは――氷柱お姉ちゃんの隣に立てるような女の子に、なりたいです――」

 氷柱は綿雪の姿を見つめていたが、
 やがて胸の奥からこぼれるかように途切れ途切れの言葉が漏れ出した。

「バカよ……こんな私みたいになりたいなんて……そんなこと言われたら……」

 つぶやきながら氷柱はリボンを解いた。艶やかな髪が光を撒いて肩へと落ちる。
 その光景に見とれる最中、唐突に氷柱は自分の髪をわしゃわしゃとかき乱し始めた。 
「氷柱!?」
「お姉ちゃん!?」
 瞬く間に氷柱の髪はぐちゃぐちゃに、乱れた髪が前に下りて顔さえ見えない。
 そして、そのまま氷柱は髪を直そうともせず自分の椅子に座る。
「……髪が乱れちゃったから櫛で梳いてもらえないかしら、ユキ?
 髪が綺麗になる頃には、きっと私も、綺麗な私に戻っているはずだから
 お願いよ――ユキ――」
 
 乱れた髪の隙間に光るものが見えた気がした。
 こちらを見た綿雪に黙って頷くと、綿雪は氷柱のそばに寄り添い髪を梳り始めた。

「ごめんなさい、氷柱お姉ちゃん」
「謝ったらダメよ……これは私がユキにお願いしてるんだから」
「そうですね。氷柱お姉ちゃん、ありがとうございます。
 氷柱お姉ちゃんの髪、本当に綺麗」
「……ユキの髪ほどじゃないわよ」
「ううん。とっても綺麗です」
 
 これ以上は邪魔なだけなので、
 音を立てないよう部屋を出ることにした。


 その後、綿雪のお誕生日パーティも楽しく終わった。
 笑顔でプレゼントを受け取る綿雪の姿を見ると助けになれたことを嬉しく思う。
 パーティでは氷柱もすっかり元気な様子で笑顔を見せていた。
 あの後、どんな会話があったのかはわからない。
 ただ、あの二人ならどんなことがあっても安心に思える。
 自室の机で今日の出来事を思い起こしているとノックの音がした。

「開いてるよ」
「お邪魔します。お兄ちゃん」

 綿雪が扉の向こうから顔を出した。
 部屋の中に入ってくるとお辞儀を一つ。

「ありがとうございます、お兄ちゃん。
 今日はユキが頑張れたのはお兄ちゃんのおかげです」
「俺はぜんぜん何もしてないよ。約束通りそばにいただけ」

 お礼を言われるのが気恥ずかしくてぶっきらぼうに答えるが、
 綿雪は意にも介さず笑顔のままこちらの手を握ってくる。

「いいえ。ユキは知ってます。お兄ちゃんがユキを助けてくれたことを、
 ユキの負担になりすぎないようお兄ちゃんがいつも気を遣ってくれたことを、
 氷柱お姉ちゃんとお話する時もお兄ちゃんが居なかったら、
 ユキはきっと最後まで気持ちを伝えることができなかったと思います」
「そんなことないよ。全部ユキが頑張ったから、ユキの力だよ」
「ふふ、お兄ちゃんは恥しがり屋さんですね。本当にありがとうございます。
 でもお兄ちゃんには出会ってからずっと元気をもらってばかりです。
 今日側に居てもらうお願いがプレゼントの代わりなのに、
 結局お兄ちゃんからプレゼントをもらっちゃいました。
 ユキは今日みんなにお返しするために頑張りました、けど、
 今度はお兄ちゃんからもらってばかり……」

 綿雪の顔が暗くなるのを見て
 慌てて口をはさむ。

「もう、お返しならもらってるよ」
「え?」
「今日の最高のユキの笑顔。
 来年は今年よりもっと素敵なユキの笑顔が見られる。
 それだけで俺には最高のお返しだよ」

 気障かな、と思うけど、
 綿雪の悲しい顔なんてみたくない。
 花がほころぶようにゆっくりと綿雪に笑顔が戻る。
 その様子を見届けてほっとした瞬間、視界が柔らかなものに覆われた。
 ふわりと宙に浮き上がった綿雪の柔らかな髪、
 その意味を考えるよりも早く、

 首に回った細い腕と
 頬に柔らかいものが触れる感触――

「ユキ、お兄ちゃんにもっともっとたくさんのものを返せるような――
 そんな女の子になれるようがんばります! お兄ちゃん――大好きです♥」     
  
 綿雪の瞳が弓形に細まり、長く艶やかな眉毛がかすかに揺れる。
 わずかに薔薇色が差す白い頬と柔らかく結ばれた桃色のくちびる。
 自分はまだプレゼントをもらっていなかったのだと気付く。 
 きっとこれが今の綿雪の最高の笑顔――

 思わず見とれて頭が真っ白になっている間に、 
 綿雪は恥ずかしそうに部屋からぱたぱたとかけだして行った。
 
 一人我に返れば火照る頬に気付いて、敵わないなと思う。
 今日一日で綿雪はどれだけ強く生まれ変わったのだろうか。
 来年の綿雪はこれ以上どれだけ素敵な女の子になるのだろうか。
 この先、兄として要求されるレベルを考えると恐ろしくなってくるけど、
 今は綿雪のことを心から祝いたいと思う。

「ハッピーバースディ、ユキ。それから――」

 そしてもう一つ。
 この先も綿雪がより素敵な少女へ生まれ変わり続けることを祈って、

「ハッピー "リ" バースディ、ユキ――」

 (終)

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いやはや、綿雪を本格的に書くのは初めて、
好き過ぎると逆に書きづらい。
あと私は長男に色々やらせたがるタイプなんですが、
今回は何もできず。ユキは強すぎる。
タイトルは最近スケットダンスであった気がしますが、
意味合い的にはよくある内容ということでどうか一つ。
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akio(あきお)

Author:akio(あきお)
とってもゆるい人間が気まぐれに記事を書いたり、書かなかったりします。見てくれる方はあまりいないでしょうが、見て頂けるのでしたらありがたい限りです。
小説っぽいものを出したり、出さなかったりするサークル「妄想ワンコインスタンド」のほったて窓口。メールは aki44013あっとまーくgmail.com まで。twitterはdm_akioまで

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